共分散構造分析

研究成果: Contribution to journalArticle

抄録

共分散構造分析は,構造方程式モデリング(SEM : structural equation modeling)とも呼ばれる統計解析技法である.近年,AMOS(SPSS社)など使いやすい優れたソフトウェアが利用できるようになってきたこともあり,社会・人文科学系では人気が高い.<BR>最大の特徴は,因果関係のモデルを自由に作って,それを検証することができることである.このモデルには計測されたデータだけでなく,研究者が想定した(実際には直接測定することのできない)構成概念も含めることができる.社会・人文科学系の研究者にとって,共分散構造分析を使う主眼はむしろ構成概念の分析にあり,共分散構造分析は構成概念間の因果関係を調べる手法と言ったほうが現実的な使い方に合っている.<BR>モデル構築が自由であるため,回帰分析や因子分析,分散分析といった多くの統計分析法は,共分散構造分析の下位モデルとして位置づけることができる.つまり共分散構造分析は単なる多変量解析のひとつとしてではなく,多くの統計手法を内包する大きな枠組みと考えることができる.<BR>図1に,ユーザビリティ(使いやすさ)が高い商品ほど魅力があるとされていることから筆者が考えたモデルの例を示した.このような図をパス図という.パス図では,直接データとして数値的に得られるものを観測変数といい四角で囲んで表し,構成概念を表す変数を潜在変数といい楕円で表すことが慣例となっている.そして原因から結果へ向けて矢印を引く.図中のeは誤差,dは攪乱(潜在変数に関わる誤差)である.<BR>重回帰分析でもパス図で変数間の関係を表すことがあるが,重回帰分析では潜在変数を扱うことができないため,観測変数間だけの表面的な検討となる.また,よく知られている多変量解析である因子分析は,観測変数(この例では5つ)からその背景にあると想定される因子をいくつか(この場合2つ)抽出するので,図2aのようなモデルを当初仮定している.因子間に引いた双方向矢印は因子間の相関である.因子分析の結果,関係が薄いとなった矢印を消すと,例えば図2bのようになったとする.図1と似ているが,潜在因子間が双方向矢印で結ばれていることからわかるように両者の因果関係は知ることができない.そして因子分析では,理論上この因子とこの因子には因果関係があるはずだと思っていても,それを反映した分析をおこなうことができない.<BR>共分散構造分析の基本的な考え方は,原因+誤差=結果という線形モデルである.もちろん原因は複数あっても差し支えない.その場合は,λ<SUB>1</SUB>*原因1+λ<SUB>2</SUB>*原因2+…+誤差=結果となる.λ<SUB>1</SUB>やλ<SUB>2</SUB>は重みである(パス図ではパス係数と呼ばれ,矢印に付与される).結果の部分が潜在変数の場合の式を構造方程式,観測変数の場合を測定方程式という.共分散構造分析の計算原理は,実際のデータの分散と共分散に,構造方程式と測定方程式から算出した分散と共分散がもっとも合うようにパラメータ(パス係数や各変数の分散等)を決定するというものである.計算方法として最小2乗法や最尤法等が使われているが,それについての解説はここでは省略する.<BR>推定したパラメータを持つモデルがどの程度信頼できるか(モデルの分散,共分散が実データの分散,共分散とどの程度一致しているか)を調べることができる.信頼性を示す指標として種々の指標が提案されているが,一般的には,まずモデルと実データの分散,共分散が等しいと帰無仮説を立ててχ<SUP>2</SUP>検定をおこなう.有意であれば,モデルは実データを適切に表現していないことになるので,そのモデルは問題があることになる.有意でなければ,モデルと実データは異なるとは言えないということになるので,一応,立てたモデルは正しいと考える.そして,次にいくつか提案されているGFI(goodness of fit index)やAGFI(adjusted goodness of fit index),RMSEA(root mean square error of approximation)などの適合度に関する指数の値を調べ,問題がなければモデルが適合していると判断する.<BR>このように共分散構造分析では,分析対象に関するモデルを立てて計算しχ<SUP>2</SUP>値や適合度指数を見て適否を判断するわけだが,実際にやってみると大抵は不適となる.そこで,研究者はモデルを立てては分析し直すというプロセスを繰り返すことになる.この努力の中で,新たな発見があり対象に対する見方が深まっていく.分析にあたっての苦労は多いが,これまでの統計手法にはない魅力を共分散構造分析は持っており,今後も共分散構造分析を用いた研究は増えていくと思われる.
寄稿の翻訳タイトルCovariance Structure Analysis
本文言語日本語
ページ(範囲)645-646
ページ数2
ジャーナルNippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi
55
12
DOI
出版ステータス出版済み - 12 15 2008

引用スタイル